写真の無断ツイートによる著作権侵害を理由とするDMCAに基づく発信者情報の開示が認められなかった米国の事例

In re DMCA § 512(H) Subpoena to Twitter, Inc., 2022 U.S. Dist. LEXIS 109740

改正プロバイダ責任制限法が施行され、発信者情報開示請求が容易になる。
それにちなんで、In re DMCA § 512(H) Subpoena to Twitter, Inc., 2022 U.S. Dist. LEXIS 109740を紹介したい。
果たして、同様の発信者情報開示請求が日本で行われた場合、日本の著作権法とプロ責法が、そして裁判所が、どういった対応ができるのだろうかと考えると、大いに示唆に富むものではないかと思う。

事案

ツイッターユーザーA氏は匿名アカウントで、かねてから富裕層を批判するツイートを繰り返していたが、2020年10月、投資家で億万長者のB氏とそのライフスタイルを批判する6つのツイートを投稿した。各ツイートは、愛人の存在をにおわせるような文章と女性の写真から構成されていた。
ツイート後、それらの写真の著作権者を主張するX社がツイッター社に、著作権侵害を理由に写真の削除を通知したので、ツイッター社は文章はそのままに写真のみ削除した。
その後、写真の著作権登録を済ませたX社は、DMCAの規定に基づき、前記ツイートの発信者情報の開示命令を裁判所から得、ツイッター社に発信者情報の開示を求めた。
ツイッター社は、開示はAの表現の自由を侵害するとして拒否し、命令の破棄を裁判所に申し立てた。

結論

発信者情報開示命令を維持するのは、➀著作権侵害の成立についてprima facie case(一応の証明)が示されており、かつ、②開示の必要性が、問題となっている表現に関する自由を保護する必要性を超える、場合である。
➀に関して、Xは、Aの行為にフェア・ユースが成立しないことについても、一応の証明を行わなければならないが、Xの申立て内容による限り、フェア・ユースが成立するので、➀が満足されず、命令は破棄される。
また、仮に➀が満足されるとしても、本件では、Aの表現の自由を保護する必要性が、開示の必要性を超えるので、②が満足されず、やはり命令は破棄される。

判旨のポイント

1:フェア・ユースの成立について

第1要素 ⇒ フェア・ユース成立に有利
Aによる写真の利用は非営利であり、かつ変容力がある。本件の文脈でのAによる写真の利用は、その芸術的な価値を用いず、Bに対する批判の意味を付加するものであり、変容力がある。

第2要素 ⇒ フェア・ユース成立にわずかに不利
既に公表済みの作品であることを考慮しても、利用された写真は、事実的な作品ではなく芸術的な作品である。

第3要素 ⇒ 中立
写真や絵画のように、意味のある形で分割できないものの利用について検討する際、この要件は意味を持たない。

第4要素 ⇒ フェア・ユース成立に有利
非営利的かつ変容力のある利用に関して、市場への損害を想定するのは難しいので、Xは損害の発生についての説明を要するが、Xは写真のライセンス業を行っているという漠然とした説明しか行っていない。

総合考慮
以上の検討を踏まえると、フェア・ユースは成立する。

2:開示の必要性と表現の自由保護の必要性の比較衡量について

問題のツイートは、Bを含めた富裕層の贅沢な生活を皮肉るものであり、匿名性が失われるとAは、Bを含めた富裕層から反撃されるおそれもある。さらに、Aは同じ匿名アカウントで政治的に重要なツイートも行っており、その点でも、Aにとって匿名性は重要である。
もし、XとBが無関係であることがはっきりしているなら、守秘を命じた上でXに発信者情報を開示するのが妥当かもしれないが、本件の場合、Xは謎に満ちており、XとBの関係性は不明であることに留意すべきである。
そもそも、Xは発信者情報を入手して、著作権侵害訴訟をAに対して提起したとして何が得られるのか?(既に写真は削除されているので差止めは不可であり、侵害後の著作権登録なので弁護士費用も得られず、市場の害も示せていない)
裁判所は、Xに関する不明な部分を明らかにする追加の書類などを求めたが、Xの代理人はそれを断った。証拠調べをすれば、Xとその代理人が、著作権侵害とは無関係な目的のために、Aの匿名性を暴くべく司法手続きを濫用していることが明らかになる可能性もあり、その場合、ツイッター社は弁護士費用を与えられる可能性もあったが、同社もこれ以上の訴訟遂行を望まなかった。
現状の記録に基づく限り、仮に著作権侵害の成立について一応の証明がなされても、なお、Aの匿名性を保護する必要性が勝る。

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